南洲翁遺訓 - 01

廟堂びようどうに立ちて大政たいせいを為すは天道を行ふものなれば、ちつとも私をはさみては済まぬもの也。いかにも心を公平にり、正道をみ、広く賢人を選挙し、く其の職にふる人を挙げて政柄を執らしむるは、即ち天意也。ゆえ真に賢人と認る以上は、直に我が職を譲る程ならではかなはぬものぞ。故に何程国家に勲労有るとも、其の職に任へぬ人を官職を以て賞するは善からぬことの第一也。官は其の人を選びて之れを授け、功有る者には俸禄を以て賞し、之れをめでし置くものぞと申さるるに付、然らば『尚書』仲虺ちゆうきこうに「徳さかんなるは官を懋んにし、功懋んなるは賞を懋んにする」と之れ有り、徳と官と相ひ配し、功と賞と相ひ対するは此の義にて候ひしやと請問せいもんせしに、翁欣然きんぜんとして、其の通りぞと申されき。